【後立山連峰全山縦走】3000m級の稜線で嵐に遭遇して撤退した話。

 突き進むことよりも、撤退する勇気。

登山をする人はこの言葉をしっかりと頭に入れておかなければなりません。

8/26 〜 30までの5日間、北アルプスの北部『後立山連峰』を縦走する予定でした。

猿倉から入山し、白馬岳、唐松岳、五竜岳、鹿島槍ヶ岳、爺が岳、針ノ木岳を登り、扇沢に下山するルートです。

初日、白馬大雪渓を経由して白馬岳山頂まで登り、杓子岳と白馬鑓ヶ岳に向かう途中で天候が急激に悪化。それまでは青空も少し見えていましたが、突然、流れの速い雲に飲み込まれ視界を奪われます。

雨と強風に耐えながら歩くこと2時間弱、なんとか幕営地である天狗山荘に到着。

予報では天候は比較的安定するはずでした。思いもよらぬ悪天に出鼻を挫かれることに。

テントの中で考えました。入念に計画を立て、体調も万全なのにこのまま帰りたくない、また来年まで待たなきゃいけないのか、今年登ると決めたんだ、少しでも天候が回復するのではないか。

しかし、翌朝、天候が優れることはありませんでした。計画上では、この日は北アルプス屈指の難所「>不帰ノ嶮」を通過する予定でした。下山中も天候は徐々に悪化し、もしあのまま進んでいたらと考えると恐ろしくなります。

山は優しい表情をみせてくれる時もあれば、厳しい表情をみせる時もあります。大切なのは山に対して謙虚でいること。謙虚さを欠いた行動は山というステージでは生死に関わるからです。

「大丈夫」「自分ならいける」という根拠のない自信が取り返しのつかない事故に繋がります。どんなに訓練を積もうが、身体を鍛えようが、自然の力には抗えません。

どんなに体調が良くても、準備が万全でも、諦めなければならない時もある。

この登山を無事成功に終わらせることと、途中で撤退することのどちらに価値があるのか。

価値の有無の問題ではありませんが、いずれにせよ、わたしは同等の価値があると考えています。むしろそうでなければならない。計画通りに行こうが、途中で撤退をしようが「自分で判断した」ということが大切です。

突き進む人が偉くて、撤退した人が偉くないというわけではない。

なんでもそうですが、始めることよりも辞めることの方が難しいものです。これは仕事でも恋愛でも同じです。きちんと自分の意思で辞めることができて、次のステージに進むことができます。

最後まで登ることができなくて残念という気持ちはありますが、悔しいという気持ちはありません。自分で正しい判断ができたからだと思います。

わたしの登山において初めての撤退となりました。しかし、今までで一番勉強になった登山でした。

来年は今年よりも先に進みたい。その先に広がる世界も見てみたい。相談に乗っていただいた山小屋のお兄さんにもお礼を伝えたい。今はそんな気持ちで胸がいっぱいです。

物語の続きはいくつになっても気になるものです。来年はその続きが見れますように。

『なぜ山に登るのか?』それは3歳の子が公園のジャングルジムの頂上に登ろうとする心理と恐らく同じである。深い意味ではなく、直感的にそう感じるのだ。

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