「不可能」とは、それを可能にするために立ち向かう人に与えられた”最高のご馳走”である。
京都で開催された「第5回京都一周トレイルグランドトラバース(60km)」を無事に完走しましたので、レポートさせていただきます。
舞台は京都一周トレイル
レースの舞台は京都。といってもトレイルレースなので、走るのは街ではなく山です。京都盆地は西、北、東の三方を山に囲まれており、それぞれ西山エリア、北山エリア、東山エリアと呼ばれています。
このレースは「西 → 北 → 東」と時計回りのルートで進みます。スタートは竹林で有名な嵐山。そこから北に進み、 高雄、貴船、鞍馬、大原といった自然豊かなエリアを抜けていきます。そして、比叡山、大文字山を越え、山科にゴールするルートです。
全長は約60km、制限時間12時間以内にゴールすることが完走条件になっています(途中関門あり)。
詳しいルートに関しては大会運営側から発表がありますが、ルート上にはこのような標識(番号付き)がありますので、基本的にはこの標識に従って進む形となります。
ワラーチで走ることに決めた
さて、このレースを走るにあたり、自分に一つ課題を課しました。
「ワラーチで完走すること」です。このブログでもワラーチの魅力はたびたびお伝えしてきましたが、レースでのワラーチは未経験。最後まで悩みましたが、ワラーチで走ることに決めたのです。もちろん60kmという距離は、僕にとって人生で最も長い距離の挑戦だし、ましてやワラーチで走るのは、不安であり、ある意味「賭け」でもありました。
「ヒモが切れるんじゃないのか?」「本体ごとぶっ壊れるんじゃないのか?」「足が血だらけになるんじゃないのか?」などなど色々思うことはありました。
ただ、練習の時からワラーチの走りやすさは強く実感していたので「一度これでいく」と決めたのなら、もう信じることにしました。そして、僕には「自分の足こそ至高のシューズである」という信念があるので、それを証明するためにも良い機会になると思ったんですね。
ただ、なにがあるか分からないのが自然相手のスポーツなので、ワラーチをもう1組(7mmの薄いやつ)とパラコード4本を予備に持っていきました。
補給食についての考え
補給食はこんな感じ。「小さい、軽い、糖質が多い、カロリーが高いもの」を中心に選んでいます… が、おにぎりも搭載していきました。なんでそんな嵩張るもの持っていくんだ?と思われがちですが、神戸六甲トレイル42kmを走った時に、オニギリパワーを体感しまして、これがあるのとないのでは「走りの粘り」が違うんです。
僕は、空腹に弱く、ハンガーノック(エネルギー切れ)になりやすい体質なんですね。少しでもお腹が空くと足が動かなくなってしまう。ジェルだと物足りず、パラチノース系(ゆっくり吸収されるタイプ)のジェルでもダメ。
「胃袋になにか入っている感」がないとダメなんです。なので、どちらかというと「米系(多糖類)」のもののほうがカラダに合っている。栄養学的にも多糖類のほうが長時間にわたって栄養が供給されるので理にはかなっているはずです。
ただ、難しいですよね。やはりオニギリを背負って走るのは重いんですよ。できるだけ荷物が軽いほうが脚への負担は小さいし、ザックの揺れも少ないから走りやい。しかも、固形物だからきちんと咀嚼しないと胃が気持ち悪くなる。よく、オエっ… ってきますから(笑)
もうこればかりはトレードオフの関係です。完璧なんてありえないので、日頃からの練習で慣らしておくしかないと考えています。普通なら「食後に走るのはよくない」なんて言われますが、あえて食後に走る練習をするなど、そういうことに慣れておくこともトレーニングだと考えています。
オニギリはできるだけ前半に食べるようにし、疲労が溜まり咀嚼力や唾液の分泌も鈍くなる後半戦に、ジェルなどを摂る作戦にしました。
いざ出陣!
阪急嵐山駅に到着。会場の嵐山公園までは15分くらい。選手たちの姿もチラホラ。もう、ファンランナーの僕からしたら、みなさん山の猛者にしか見えないわけです。
早朝の渡月橋。10月だから少し肌寒いのかなぁ?なんて思っていましたが、この日の最高気温は27度になる予報。
嵐山公園に到着。受付を済ませ、ゼッケンを受け取り、スタートまで準備を整えます。荷物は1点のみゴールまで運んでもらえます。
スタート(嵐山公園) 〜 第一エイド(清滝橋)
スタートはウェーブ制。8:00組と8:05組に分かれてスタートします。これはフルまたはハーフマラソンの記録に基づいて決められます。タイムが遅いほうが先発組。僕はもちろん先発組。
8:00 レース開始。嵐山公園を出るといきなり竹林が!しかも、僕の大好きな大河内山荘の前を通過していきます。
京都らしい古民家の街並み。庭掃除をするおばちゃんに挨拶しながら進んでいきます。
第一エイドまでは清滝川に沿って進みます。「よくワラーチで走れますね!冬も走るんですか?」と声をかけられたので、のんびり会話をしながら走ります。ちなみに今大会では3人ほどワラーチストを見かけました。
清滝橋が見えたら第一エイドはすぐそこ。
9:00 第一エイド(清滝橋:8.3km)に到着。ここから登りが続くので、ゆっくり脚を温めていきます。
第一エイド(清滝橋) 〜 第二エイド(レストランはせがわ)
沢の池までの急登。
沢の池に到着。秘境感抜群。元々は江戸時代末期に作られた農作業用の人工池だそうで、現在はロケなどにも使われているそうです。無料・予約不要の野営地で、キャンプもできるみたいです。
さて、第二エイドに向かうわけですが、10月は松茸シーズンとのことでルート変更になりました。距離は3.5km延長。さらに一度下って、また登り返すことになりました。
「登りは休憩」と考えているので、脚を休ませたり、補給食を食べるなどして時間を節約します。
10:45 第二エイド(レストランはせがわ:19.5km)に到着。正午に近づくにつれ、少しずつ暑くなってきました(写真を撮り忘れたのでその手前の分岐)
第二エイド(レストランはせがわ) 〜 第三エイド(山幸橋)
11:00 スタートから3時間が経過。
氷室神社を越えていきます。
盗人谷。伐採された樹によって道が塞がれているので、ルートを間違えないように進んでいきます。
11:25 第三エイド(山幸橋:24.5km)に到着。
第三エイド(山幸橋) 〜 第四エイド(静原神社)
貴船、鞍馬に続く道に入ります。決して足場は悪くありませんが、上りも下りも急なので、みなさん大転倒。ワラーチの間に小石が入って痛かった!
12: 46 貴船口駅に到着。貴船は川床料理で有名。そして、絵馬の発祥地であり、水の神様で有名な貴船神社があります。京都に来た時には必ず訪れる場所です。まさか今回はレースの通過点として立ち寄るなんて思ってもみませんでした。
2年ぶりに来ましたが、駅がリニューアルされていました。休憩所に自販機があるのでレモンスカッシュを購入。冷えてて美味しい!ちなみに今大会のコース上にはいくつか自販機がありますが、コーラ率低め、レモンスカッシュ率高めです。
鞍馬寺に到着。せっかく来たんだから境内まで行きたいけど今回はお預け!
13:30 第四エイド(静原神社:32.6km)に到着。暑いのでさすがに疲労感が。距離的にも足が動かなくなってくるので、ここでしっかり補給をします。
第四エイド(静原神社) 〜 第五エイド(比叡駅前)
比叡山に向けて出発!大原の街を抜けていきます。
比叡山までの急登スタート。通称ボーイスカウト坂。
登ること40分、ここでアクシデント発生。
仰木峠から水井山へ向かう途中で道を間違えました。「あれ、なんか下りが続くなぁ」と思い地図を開くと違う方向に進んでいることが発覚。登り返すのが本当にしんどかった。こんなこともあろうかと、山と高原地図(京都北山編)のアプリを入れておいて良かったと感じました。
ようやく延暦寺に到着。寺域はウォーキング指定になっているので、ゆっくり歩いて足を回復させます。
16:30 第五エイド(比叡駅前:45.6km)に到着。関門が17:00なので結構ギリギリ。あのまま違うルートを進んでいたらヤバかったです。
第五エイド(比叡駅前) 〜 第六エイド(京都朝鮮学校)
最終エイドの京都朝鮮学校へ向かいます。比叡山の下りがいい感じにガレてまして、ワラーチだとメッチャ痛い。修行だ!足ツボマッサージだ!と思考を切り替えるも、それでも痛いもんは痛い。
夕日が綺麗… と思いつつも、日没までに最終エイドには辿り着きたい。
なんとか市街地に出ました。ここでゴールでいいんじゃない?なんて思ってしまいますが、まだレースは続きます。
17:46分 最終エイド(京都朝鮮学校:52.1km)に到着。
今まで溜め込んだ贅肉が1日で消えるレベルですね。
第六エイド(京都朝鮮学校) 〜 ゴール(毘沙門堂)
大文字山に向かいます。ここからは夜間走行なのでヘッドライトを着用。ゴールまであと7km。
夜景を見るために登っている人もチラホラ。夏の夜の肝試しみたいな感じが楽しかった。
大文字山からの夜景。もうこれは最高のご褒美でした。反対側に見えるのが今朝出発した嵐山。ここまで50km以上。感慨深いものがありました。
ゴールまであと一息!!!
念願のゴール
19:20 無事に完走!制限時間が20:00なので結構ギリギリ。最後の50mくらいが激坂になっているのに笑いました。ちなみにこの大会、完走率は65%だったみたいです。過酷すぎますね。今回は緊急事態宣言の影響で1ヶ月遅れた開催となりましたが、通常通り開催されていたら気温は更に上がるので、より過酷だったでしょう。
まとめ
今回の目標は「ワラーチで完走すること」だったので、それが達成できて満足です。何か大きな問題があったか?と言えば、特に見当たりません。ワラーチと足の隙間に小石が入ったり、ガレたところだと足裏が痛かったりはしましたがそれは許容範囲。
それよりも一番避けなければならないのは「走行不能」になること。これはレースに限らず、山に入る時は必ず意識しなければならないことです。僕はシューズだと足を捻りやすい癖があるので、比叡山や大文字山などのガレた場所なんかは「シューズだったら足捻ってただろうな」というのは直感的にわかりました。
なにが正解なんてのはわからないですが、一つだけ言えるのは、自分が走りやすいと感じることがベストだということ。そのためにも日頃から色々試行錯誤し、自分自身のカラダのことをよく知っておくことだと思います。
自分のカラダを知ると言うと難しく聞こえるかもしれませんが、専門家に見てもらうとか、科学的な方法で分析するとか、そういうことじゃない。それよりも「自分の感覚」を大切にするということ。誰かにこう言われたからこう、ではなく、まずは自分がどう感じるかが一番大切。
銀魂の空知先生も「武器なんてなんでもいいんですよ。一番の武器は君のハンターとしての信念とプライドなんです。それがあればどんな奴にだって必ず勝てます」と仰っていましたが、本当にそう。
一度ワラーチで行くって決めたならもう迷いや不安なんか捨てて「絶対にワラーチで走り切る」と腹を括ること。体力勝負じゃないんですよね。信念とかプライドとか意地とか軸とか、そういった精神寄りな要素の方がはるかに大切だと感じています。
口だけではなく、今回はそれを証明できたレースだったんじゃないでしょうか。
やってみなきゃわからない。