纒向珠城宮|垂仁天皇と倭姫命・本牟智和気王の物語

纒向を巡る旅。

前回は、纒向遺跡や箸墓古墳などを巡り、古代ヤマトの痕跡をたどりました。

今回はそこから少し場所を移し、どうしても訪れたかった纒向珠城宮(まきむくたまきのみや)へ。

第11代・垂仁天皇(すいにんてんのう)が宮を営んだと伝えられている場所です。

そして実は、歴代天皇の中で私が一番好きなのが、この垂仁天皇。

『古事記』を読んでいると、垂仁天皇の時代には印象に残る物語がいくつも登場します。

今回は、その物語を振り返りながら纒向珠城宮を訪ねます。

目次

纒向珠城宮|垂仁天皇が宮を営んだと伝わる場所

現在の纒向珠城宮は、静かな田園風景の中に石碑が残る場所。

ここは、垂仁天皇が宮を営んだと伝えられる伝承地です。

大きな建物が残っているわけでもなく、今はとても静かな場所ですが、私にとってはどうしても訪れてみたかった場所のひとつです。

ここから登場する人物の関係を、簡単に整理しておきます。

倭姫命の父・垂仁天皇

この旅の記事で何度も登場している倭姫命(やまとひめのみこと)。

倭姫命は、垂仁天皇と日葉酢媛命(ひばすひめのみこと)の間に生まれた皇女です。

そして、天照大御神をお祀りする場所を求めて各地を巡った人物です。

それまで天照大御神をお祀りしていたのは、崇神天皇の皇女である豊鍬入姫命(とよすきいりひめのみこと)。

その役目を倭姫命が引き継ぎ、大和を出発します。

伊賀、近江、美濃などを巡り、最終的にたどり着いたのが伊勢でした。

伊勢神宮(内宮)

今回の旅で巡ってきた伊勢神宮や瀧原宮などとも、ここで話がつながってきます。

倭姫命のお父さんが垂仁天皇。

それだけでも、私が垂仁天皇に惹かれる理由のひとつです。

もう一人の皇子・本牟智和気王

そして、もう一つ好きなのが、垂仁天皇の皇子である本牟智和気王(ほむちわけのみこ)の物語。

本牟智和気王の母は、垂仁天皇が深く愛した后「沙本毘売(さほびめ)」です。

しかし沙本毘売は、兄である沙本毘古王(さほびこのみこ)の謀反に巻き込まれます。

兄から「夫である垂仁天皇と、自分のどちらが愛おしいか」と問われ、天皇の暗殺を持ちかけられるのです。

眠っている垂仁天皇を殺そうとしますが、どうしても実行することができませんでした。

夫である垂仁天皇と、兄である沙本毘古王。

その間で葛藤した末、沙本毘売は兄の籠もる稲城へ向かいます。

そして戦いの中で生まれたのが、本牟智和気王でした。

最後は兄とともに命を落とした沙本毘売。

垂仁天皇のもとには、二人の間に生まれた皇子が残されます。

言葉を話せなかった本牟智和気王

ところが、本牟智和気王は成長しても言葉を話すことができませんでした。

ある日、空を飛んでいく白鳥の鳴き声を聞き、「ああー」と、初めて声を発します。

それを見た垂仁天皇は大喜びします。

「この鳥を捕まえれば、皇子が言葉を話すようになるかもしれない」

そう考え、白鳥を追わせます。

ようやく捕まえた白鳥を皇子のもとへ連れてきますが

残念ながら、皇子は言葉を話しませんでした。

そんなある夜、垂仁天皇の夢の中に大国主神(おおくにぬしのかみ)が現れます。

出雲大社の神様ですね。

「私の宮を、天皇の宮殿のように立派に整えて祀れば、皇子は言葉を話せるようになる」

という神のお告げでした。

『古事記』では夢に神が現れる

この場面を読んでいると、前に登場した崇神天皇の物語を思い出します。

国内に疫病が広がり、崇神天皇が困り果てていたときにも、夢の中に大物主神が現れました。

神が夢に現れ、

「こうすれば問題は解決する」

と方法を伝える。

『古事記』には、こうした場面がたびたび登場します。

昔の人にとって「夢」は、ただの夢ではなかったのでしょう。

出雲へ向かう前に行われた「誓約(うけい)」

出雲大神のお告げを受け、本牟智和気王を出雲へ向かわせることになります。

同行者として選ばれたのが、曙立王(あけたつのみこ)と菟上王(うなかみのみこ)の兄弟。

しかし、本当に神のお告げに霊験があるのか。

それを確かめるために行われたのが、誓約(うけい)です。

簡単に言えば、

「もし◯◯なら、△△になるはず」

と事前に条件を決め、その結果によって神意を確かめるもの。

曙立王は、池の木にいた鷺に向かって、

「本当に霊験があるのなら、鷺よ落ちよ」

と、誓約を行います。

すると鷺は地面に落ちて死んでしまいます。

続いて、

「それでは生き返れ」

と誓約すると、

鷺は再び生き返りました。

さらに甘樫の大きな樫の木を枯らし、もう一度生き返らせるという誓約まで行われます。

誓約は『古事記』では何度か登場します。

出雲でついに言葉を話す

こうして本牟智和気王の御一行は出雲へ向かいます。

出雲の大国主神を参拝し、その帰り道。

肥河のほとりに設けられた仮宮で、

「あの青葉の山のようなものは、本当の山ではない。出雲大神を祀る場所なのか」

突然、本牟智和気王が言葉を発します。

それまで言葉を発しなかったとは思えないほど、ずいぶん饒舌です。

このあたりの一連の物語は、私が『古事記』の中でも一番面白いと思っている場面のひとつです。

ただし、この物語、ここでは終わりません。

出会った女性の正体は巨大な蛇

出雲で本牟智和気王は、肥長比売(ひながひめ)という女性と一夜を共にします。

しかし、こっそりとその姿を覗いてみると

その正体は蛇。

驚いた本牟智和気王は、家臣たちとともに船で逃げます。

すると肥長比売は、海原を照らしながら追いかけてきました。

それを見た皇子はさらに恐れ、船を山へ引き上げて逃げ帰ります。

帰りはスプラッシュ・マウンテンのように下ったのでしょうか。

急に喋り出したと思いきや、今度は蛇に追いかけられる。

こういう場面を想像すると、『古事記』、やっぱり面白いですね。

そして、まさかの白鳥

そんな本牟智和気王の物語を思い出しながら纒向を巡っていると

白鳥を発見。

本牟智和気王が初めて声を発したきっかけも、空を飛んでいった白鳥でした。

偶然でしょうか。

しかし、こういう瞬間があるから、物語の舞台を実際に歩く旅はやめられませんね。

垂仁天皇の時代に思いを馳せる

そんな垂仁天皇が宮を営んだと伝えられているのが、ここ纒向珠城宮。

今は石碑が立つだけの静かな場所です。

石碑の前で目を閉じ、しばらく垂仁天皇の時代に思いを馳せました。

本で読んだ物語の舞台を、自分の足で訪ねる。

こうしてまた、『古事記』の世界が少しだけ近くなった気がします。

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