今回の伊勢・奈良の旅も、いよいよ終盤。
伊勢から始まり、三輪、纒向、飛鳥と、『古事記』や古代日本にゆかりのある場所を巡ってきました。
前回は、大神神社を訪れ、正式参拝や神職の方のお話を通して、三輪山信仰や大物主神について学びました。

そして今回向かったのは、奈良でどうしても訪れたかった二つの神社。
賣太神社(めたじんじゃ)と、多神社(おおじんじゃ)です。
賣太神社は稗田阿礼(ひえだのあれ)、多神社は太安万侶(おおのやすまろ)にゆかりのある神社。
稗田阿礼が語り、太安万侶が書きまとめた『古事記』。二人は、それを今に残した人物です。
今回の旅では、本当にたくさんの神社や史跡を巡りました。
もちろん、そこに順位をつけるつもりはありません。
それでも、この二社は私にとって特別な場所でした。
このお二方がいなければ、今の私の旅はなかったからです。
もともとは、初詣や登山、旅行のついでに神社へ立ち寄るくらい。
それが『古事記』と出会ったことで、神社の見え方がまったく変わりました。
祀られている神様の名前だけではなく、その神様の物語や、ほかの神々とのつながりが見えてくる。
それが、本当に面白い。
気がつけば私は、『古事記』の物語を追うように、日本各地の神社を巡るようになっていました。
稗田阿礼を祀る賣太神社へ
まず訪れたのは、奈良県大和郡山市に鎮座する賣太神社(めたじんじゃ)。
『古事記』の編纂に深く関わった稗田阿礼(ひえだのあれ)を祀る神社です。

『古事記』は、天武天皇の命によって、稗田阿礼が天皇の系譜や古くから伝わる物語を覚え、それをもとに太安万侶が文章としてまとめたものです。
そして和銅5年(712年)、完成した『古事記』が元明天皇へ献上されたとされています。
今から1300年以上も前のことです。

私たちが今、『古事記』を一冊の書物として読むことができる。
その始まりに関わった人物の一人が、ここに祀られている稗田阿礼です。

神主さんから聞く『古事記』の話
参拝した際、神主さんに東京から旅をしていることをお話ししました。
すると暑い中にもかかわらず、お時間を割いてくださり、さまざまな貴重な資料を見せていただきました。
そして、『古事記』についてのお話も直接聞かせていただくことができました。
また、近年の発掘調査によって少しずつ新しいことが明らかになってきているそうで、これからどんな発見が出てくるのかも楽しみになりました。

古事記と出会い、その物語に惹かれ、全国の神社を巡るようになった私が、
『古事記』の編纂に関わった稗田阿礼を祀る神社で、神主さんから直接『古事記』のお話を聞いている。
夢のような時間でした。
今回の旅は、伊勢から奈良まで多くの神社や古代の史跡を巡り、ただでさえ内容の濃い旅でした。
それが賣太神社を訪れたことで、さらにもう一段、深くなりました。
そして何より、もっと『古事記』が好きになりました。
太安万侶ゆかりの多神社へ
続いて向かったのは、奈良県田原本町に鎮座する多神社(おおじんじゃ)。
正式には、多坐弥志理都比古神社(おおにいますみしりつひこじんじゃ)といいます。


この神社は、『古事記』を文字としてまとめた、太安万侶(おおのやすまろ)の氏族である多氏と深い関わりを持つ神社です。
そして、通りを挟んだ反対側にある小杜神社には、太安万侶が祀られています。



稗田阿礼が語り伝え、太安万侶が書き残した『古事記』。
その二人にゆかりのある神社を、こうして続けて訪れることができました。
今回の旅で、どうしてもこの二社へ来たかった理由が、ここにあります。
『古事記』を読む前と、読んだ後
『古事記』を読む前と読んだ後では、神社の見え方がまったく変わりました。
以前は、神様の名前もよく知らず、ご利益をいただいたり、お守りや御朱印をお受けしたりする。そのくらいの感覚でした。
もちろん、それでも十分だと思います。
ただ、神様の物語や、その土地とのつながりを知ってから手を合わせると、少し距離が近くなるように感じます。
これは人間関係でも同じで、相手のことを知るほど理解が深まり、信頼関係も生まれていく。
神様について知ることも、それに少し似ているのかもしれません。
自分の国のことを、どれだけ知っているだろう
『古事記』を読むようになって、もうひとつ感じたことがあります。
自分たちの国が、どのように形づくられてきたのか。
神社とお寺の違い、神道とは何か、皇室と日本の歴史がどう関わってきたのか。
意外と、身近なことほど知らないものです。
海外へ行ったときに恥ずかしいのは、英語がうまく話せないことでも、国際的な教養が足りないことでもなく、自分の国について聞かれたときに、何も語る言葉を持っていないことなのかもしれません。
学校教育の中でも、神道や神社、皇室の扱われ方は時代によって大きく変わってきました。その背景についてはここでは触れませんが、興味のある方はぜひ調べてみてください。
正直、こういうことを学校でもっと教えてほしかったと、今になって強く思います。
だからこそ、「それなら自分で学ぶしかない」と思いました。
『古事記』を読み、神社を巡り、その土地を実際に訪ねるようになったのも、その延長にあります。

『古事記』編纂の始まりにつながる場所。
神社が好きな方には、ぜひ読んでほしい
神社が好きな方には、ぜひ一度『古事記』を読んでみてほしいと思います。
「なぜ、この神社にはこの神様が祀られているんだろう」
その疑問の先に、たくさんの物語が見えてきます。
そして気がつけば、自分の国のことをもっと知りたくなる。
少なくとも私は、『古事記』を読んでから、日本という国への愛着がより深くなりました。
古事記を今に残してくれて、ありがとう
稗田阿礼が語り、太安万侶が書き残した『古事記』。
1300年以上たった今、私はその物語を読み、その舞台や神々を祀る神社を巡っています。
そして今回、二人にゆかりのある場所まで来ることができました。
もし『古事記』と出会っていなかったら、私は今ここにいなかったと思います。
賣太神社と多神社を訪れて、改めて伝えたくなりました。
『古事記』を今に残してくれて、ありがとうございます。
おかげで、日本を巡る旅が以前よりずっと面白くなりました。


